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松山地方裁判所 昭和36年(行)8号 判決 1966年4月11日

原告 加藤晴夫

被告 西条市長 外一名

主文

(一)  原告の本件訴中、(1)被告村上徳太郎に対する同被告就任前に前市長のなした奨励金の交付にかかる損害金中昭和三三年度分二一、八〇三、七八〇円、昭和三四年度分中一部一三、八〇三、六六〇円の補填、(2)被告西条市長に対する同被告が倉敷レーヨン株式会社から、昭和二九年度から昭和三四年度まで、同会社西条工場の自家発電にかかる自己使用電力について、電気ガス税を賦課徴収した各処分の取消、(3)被告村上徳太郎に対する同被告の右各処分に伴う西条市の損害金二、五四一、六〇〇円の補填、(4)被告西条市長に対する同被告が倉敷レーヨン株式会社西条工場寄宿舎居住者から、昭和二九年度以降分につき住民税均等割一人当り二〇〇円宛賦課徴収した各処分の取消、(5)被告村上徳太郎に対する同被告の右各処分に伴う西条市の損害金九八〇、二〇〇円の補填を求める部分の訴を却下する。

(二)  原告のその余の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の申立)

一、原告の申立

(一)  被告西条市長が倉敷レーヨン株式会社に対し、同会社西条工場増設による奨励金として、昭和三三年度二一、八〇三、七八〇円、昭和三四年度一八、四〇四、八七〇円、昭和三五年度一五、二二五、四一〇円を交付した各処分を取消す。

(二)  被告村上徳太郎は西条市に対し、金五五、四三四、〇六〇円を支払え。

(三)  被告西条市長が倉敷レーヨン株式会社から、昭和二九年度から昭和三四年度まで、同会社西条工場の自家発電にかゝる自己使用電力について、電気ガス税を賦課徴収した各処分を取消す。

(四)  被告村上徳太郎は西条市に対し、金二、五四一、六〇〇円を支払え。

(五)  被告西条市長が倉敷レーヨン株式会社西条工場寄宿舎居住者から、昭和二九年度以降分につき、市民税均等割一人当り二〇〇円宛賦課徴収した各処分を取消す。

(六)  被告村上徳太郎は西条市に対し、金九八〇、二〇〇円を支払え。

(七)  訴訟費用は被告らの負担とする。

二、被告らの申立

原告の請求を棄却する。

(原告の請求原因)

一(一)  倉敷レーヨン株式会社(以下倉レという。)西条工場の増設は、昭和二九年着工し、昭和三二年一二月頃竣工した。被告西条市長(前市長文野俊一郎、現市長村上徳太郎昭和三四年一二月二〇日就任)は、倉レに対し、昭和三二年三月二七日改正の西条市工場誘致条例(以下改正誘致条例という。)に基ずき、右工場増設による奨励金として、昭和三三年度二一、八〇三、七八〇円、昭和三四年度一八、四〇四、八七〇円、昭和三五年度一五、二二五、四一〇円をそれぞれ交付した。

(二)  しかしながら、右改正誘致条例の経過規定である附則第二項によれば、「この条例施行のとき西条市工場誘致条例の適用を受けているもの及び新設又は増設の届出があつて現に建設中のものについては、なお従前の例によるものとする。」ことになつており、右倉レ西条工場の増設はこの場合に該当するので、若し改正前の西条市工場誘致条例(以下旧誘致条例という。)の適用要件を具備するならこれが適用さるべきであつた。しかも旧誘致条例には奨励金交付の規定がなく、誘致工場に対する優遇措置としては固定資産税を免除することゝなつていたのであるから、被告西条市が改正誘致条例を誤まつて適用して奨励金を交付した右行為は違法である。

(三)  のみならず、そもそも右倉レ西条工場の増設は、旧誘致条例の適用要件である第二条本文但書のいずれの要件をも具備しないもので、旧誘致条例を適用して固定資産税を免除できる理由もないのである。旧誘致条例の立法趣旨は市民の就労拡大所得の増加を通じて市勢の振興市民生活の安定を計るところにあり、それ故に右第二条には「常時使用従業員数五〇名以上」と定められている。ところが昭和三二年一二月九日附倉レ提出の奨励金交付申請書によると、従業員数三、八一七名で従来の三、七四六名から七一名増とあるが、実状は昭和三二年一二月末三、三五二名、昭和三三年一二月末三、〇五七名、昭和三四年一二月末二、八六五名、昭和三五年一二月末二、七八〇名、昭和三六年五月二、五六一名と漸次減少し、右申請書にいう三、八一七名に比し一、二五六名減少している。例え設備は増設しても、従業員数がこのように三分の一近くも減少したのでは、これに対し旧誘致条例を適用することはその立法趣旨に反する。従業員数の減少は、直接間接市民の職場縮少、市内の消費縮少、市民の減収に結びつき、結局西条市民の不利益に帰する。たとえば工場誘致による固定資産税の増収と従業員数の減少による市民税の減収との比較・損徳勘定は、別紙第一表の一・二のとおりで、殊に誘致条例を適用して固定資産税の免除又は奨励金の交付をした場合、昭和三二年度から昭和四一年度までの減収勘定の累積は実に六一、三四三、一七六円八八銭に上るのである。

(四)  また右奨励金の交付にしろ固定資産税の免除にしろ、右のとおり従業員数について虚偽の記載のある交付申請書に基ずいてなされた処分であるから違法である。

(五)  また奨励金の交付にしろ固定資産税の免除にしろ、実質的には地方税法の精神に反し違法である。即ち工場増設による投資は大半が償却資産であるから、一年間に一七%宛償却して行くが、固定資産税もそれにつれて漸減する訳である。倉レ西条工場の場合のように、最初の三年間に合計五五、四三四、〇六〇円の奨励金を交付すると、その後の八年間を要してその半額程度の固定資産税を得るに止まるのである。

(六)  西条市は昭和二九年度に七八、〇七一、七九三円の赤字を出し、地方財政再建促進特別措置法第三条の適用を受け、同法第一五条により国より利子補給を受けた地方公共団体であるから、同法第二三条第二項によりあらかじめ自治大臣の承認を得なければ同法施行令第一二条第一項第三号に規定する「教育、学術、文化、産業、経済、社会福祉又は交通運輸に関する事業を営み、又はこれらの事業の振興を図ることを目的とするものであつて、国又は地方公共団体の行政の運営に関係を有するもの」に対し寄附金負担金その他これに類するものを支出し得ない。しかるに被告西条市長は、右施行令に該当する倉レに対し、自治大臣の承認なくして右奨励金を支出したもので、この点からもこの行為は違法である。

(七)  以上いずれにしても、被告西条市長の倉レに対する昭和三三年度から昭和三五年度までの奨励金合計五五、四三四、〇六〇円の各交付行為は、地方自治法第二四三条の二第一項の「公金の違法な支出」に該当する。

二、被告村上徳太郎は、昭和三四年一二月二〇日西条市長に就任後自から西条市長として右公金の違法な支出を行ないその間の支出額と同額の損害を西条市に与えたのであるから、その損害を補填すべきことは勿論であるが、その就任前に文野俊一郎前西条市長が右公金の違法な支出により西条市に与えた支出額と同額の損害についても、市長就任後直ちに誘致条例第五条第四号により前市長のなした違法な支出行為を取消すべきなのにこれを懈怠した違法行為により、西条市に右同額の損害を与えたのであるから、これを補填すべき義務がある。

三(一)  被告西条市長は、倉レから、同会社西条工場の自家発電にかゝる自己使用電力に対する電気ガス税を、昭和二九年度から昭和三四年度に至るまで、一キロワツト当り三円二〇銭の10/100の割合で賦課徴収している。

(二)  しかし、自家発電の電力を自己使用する場合の電気ガス税は、地方税法第四八六条、第四八八条、第四九〇条により課税すべきもので、その課税標準は「これを他に使用させたときにおいて使用者が通常支払うべき料金相当額とする。」ことになつている。そこで四国電力株式会社の電力販売価格は、三、〇〇〇ボルト以上一〇、〇〇〇ボルト未満は一キロワツト当り三円四〇銭、一〇、〇〇〇ボルト以上は一キロワツト当り三円二〇銭である。倉レ西条工場の自家発電では最高電圧が三、三〇〇ボルトであるから、右三、〇〇〇ボルト以上一〇、〇〇〇ボルト未満の販売価格の例によるべく、一キロワツト当り三円四〇銭を課税標準として、これの10/100を賦課徴収すべきなのである。このことは昭和三五年二月の西条市議会で浅木、越沢、篠原の三市会議員から追求され、西条市税務課長加藤正喜が愛媛県総務部長に伺を立て、同部長から一キロワツト当り三円四〇銭を課税標準としてその10/100を徴収すべしとの回答を得て、爾来そのように徴収している事実から見ても明白である。

(三)  以上のとおりであるから、被告西条市長が倉レから、同会社西条工場の自家発電にかゝる自己使用電力についての電気ガス税を、昭和二九年度から昭和三四年度に至るまで、一キロワツト当り三円四〇銭の10/100を賦課徴収すべきなのに一キロワツト当り三円二〇銭の10/100を賦課徴収したことは、憲法第八四条、地方税法第四八六条、第四八八条、第四九〇条に違反し、地方自治法第二四三条の二第一項の「財産の違法な処分」に該当する。その徴収洩れ額は一年間に四二三、六〇〇円で、昭和二九年度から昭和三四年度まで六年間の合計額は二、五四一、六〇〇円である。

四、被告村上徳太郎は、その就任後自から西条市長として右財産の違法な処分を行ないその間の徴収洩れ額と同額の損害を西条市に与えたのであるからその損害を補填すべきは勿論であるが、その就任前に文野俊一郎前市長が右財産の違法な処分により西条市に与えた徴収洩れ額と同額の損害についても、市長就任後直ちに西条市市税条例第七条により追加徴収すべきなのにこれを懈怠した違法行為により西条市に右同額の損害を与えたのであるから、これを補填すべき義務がある。

五(一)  被告西条市長は倉レ西条工場寄宿舎居住者に対し、昭和二九年度以降市民税均等割を一人当り二〇〇円宛賦課徴収している。

(二)  しかし、倉レ西条工場寄宿舎居住者は、西条市市税条例第二四条第一項第一号、第三二条第一項第一号に該当するので、一人当り四〇〇円宛賦課徴収すべきものである。これを軽減し得る地方税法第三一一条、西条市市税条例第三三条、第五四条のいずれの場合にも該当しないのにこれらのうちいずれかに該当するものとして、一人当り二〇〇円宛に軽減して賦課徴収したのは、憲法第八四条、地方税法第三一一条、西条市市税条例第三三条、第五四条に違反し、地方自治法第二四三条の二第一項の「財産の違法な処分」に該当する。

(三)  また若し、西条市市税条例第五四条を適用して軽減を行なつたものならば、同条第二項により減免申請書を提出させる手続を経る必要があるのにこれを経ていない違法があり、いずれにしても「財産の違法な処分」である。そしてその徴収洩れ額は、昭和二九年度以降四、九〇一人分、九八〇、二〇〇円である。

六、被告村上徳太郎は、その就任後自から西条市長として右財産の違法な処分を行ないその間の徴収洩れ額と同額の損害を西条市に与えたのであるから、その損害を補填すべきことは勿論であるが、その就任前に文野俊一郎前市長が右財産の違法な処分により西条市に与えた徴収洩れ額と同額の損害についても、市長就任後直ちに西条市市税条例第七条により追加徴収すべきなのにこれを懈怠した違法行為により西条市に右同額の損害を与えたのであるから、これを補填すべき義務がある。

七、原告は西条市の住民であるが、地方自治法第二四三条の二に基ずき、

(一)  昭和三六年六月二八日、西条市監査委員に対し、右第一項の奨励金の各交付が「公金の違法な支出」であるから、これを監査し禁止に関する措置を構ずべきことを請求したところ、同委員は同年七月一七日付書面をもつて、右監査の結果、右奨励金の各交付は違法ではないから、西条市長に対し違法行為禁止措置を構ずる必要がない旨、原告に回答して来た。しかし原告はその見解に承服し難いので、地方自治法第二四三条の二第四項に基ずき、被告西条市長の違法な奨励金の各交付行為の取消の裁判を求める(原告の申立第一項)と共に、被告村上徳太郎に対し、右違法な奨励金の各交付行為及び同違法行為を取消すべきなのに取消さない違法行為により西条市に与えた損害の補填の裁判を求める(原告の申立第二項)ものであり、

(二)  同年七月一日、西条市監査委員に対し、右第三項の電気ガス税の各賦課徴収処分及び右第五項の市民税均等割の賦課徴収処分が「財産の違法な処分」であるから、これを監査し禁止に関する措置(第三項の賦課徴収処分を取消すこと、第三項及び第五項の課税洩れ額を追徴すること)を請求したところ、同委員は同年七月二〇日付書面をもつて、これら処分がいずれも違法でない旨原告に回答して来た。しかし原告はその見解に承服し難いので、地方自治法第二四三条の二第四項により、被告西条市長に右違法な各賦課徴収処分の取消の裁判を求める(原告の申立第三及び第五項)と共に、被告村上徳太郎に対し、右違法な各賦課徴収処分及び課税洩れを追徴すべきなのに追徴しない違法処分により西条市に与えた損害の補填の裁判を求める(原告の申立第四、第六項)ものである。

(被告らの本案前の抗弁)

一、原告の本訴請求はいずれも原告の権利義務とは全然無関係である。即ち原告の申立第一乃至第四項(原因第一乃至第四項)は、被告西条市長と倉レ間の問題であり、原告の申立第五、第六項(原因第五、第六項)は被告西条市長と倉レ西条工場寄宿舎居住者間の問題であつて、原告とは全然無関係である。従つて原告には本訴を提起する適格、主観的訴権利益がないから本訴は不適法である。

二、原告の本件訴中、原告の申立第三乃至第六項(原因第三乃至第六項)の部分は、地方自治法第二四三条の二第一項のいずれの監査事項にも該当しないものであるから、右の部分の訴は不適法である。

(被告らの本案に対する答弁及び主張)

一、請求原因第一項の(一)は認める。各年度毎の奨励金交付の明細は別紙第二表のとおりである。同項の(六)のうち、西条市が昭和二九年度に七八、〇七一、七九三円の赤字を出し、地方財政再建促進特別措置法第三条の適用を受け、同法第一五条により国より利子補給を受けた地方公共団体であることは認める。

同第三項の(一)は認める。

同第五項の(一)は認める。

同第七項の原告が西条市の住民であることゝ(一)及び(二)は認める。

その余の原告主張事実はいずれも争う。

二(一)  被告西条市長は、原告主張の倉レ西条工場の増設に対し、改正誘致条例を適用して原告主張の奨励金を交付したものであるが、右奨励金の交付が仮に同条例に違反するとしても、同条例附則第二項によれば、旧条例の適用があり、固定資産税を免除することはできた訳であるから、これと同額を徴収してそのまゝ奨励金として交付した措置は、実質的には固定資産税を免除したに等しく、たゞ免除の手続を誤まつたにすぎない。しかも奨励金の交付は、西条市議会の議決を経て被告西条市長が執行したもので、それにより西条市に全然損害を与えていないのであるから違法な処分ではない。

西条市が原告主張の昭和二九年度の赤字団体で、昭和三一年度から昭和三三年度まで地方財政再建促進特別措置法の適用を受けたことは争わないが、同法第二三条第二項に自治大臣の承認を必要と規定しているのは、寄附金又は負担金その他これに類するものゝ支出であつて、本件奨励金の如きを指すものではなく、また倉レは営利法人であるから同条及び同法施行令第一二条第一項第三号の支出対象団体に該当しない。仮に被告らの右主張が失当であるとしても、自治大臣の権限は同法第二五条により都道府県知事に委任されており、西条市においては、昭和三三年度の奨励金の支出につき愛媛県知事の承認を得ているから、原告主張の違法はない。

従つて、原告の本訴請求中、原告の申立第一、第二項(原因第一、第二項)の部分は失当である。

(二)  自家発電による電力を自己使用した場合の電気ガス税の課税標準は、地方税法第四八八条に「これを他人に使用させたときにおいて、使用者が通常支払うべき料金相当額とする。」旨規定されており、右料金は愛媛県総務部長からの通達により四国電力株式会社の供給規定によることとなつている。高圧三、〇〇〇ボルト以上一〇、〇〇〇ボルト未満は一キロワツト三円四〇銭、特高一〇、〇〇〇ボルト以上は一キロワツト三円二〇銭である。倉レ西条工場の自家発電の場合、そのいずれを適用すべきか疑問があり、被告西条市長は特高の料金によるべきものと解して昭和三四年度までこれを課税標準として課税して来た(その各年度毎の明細は別紙第三表のとおり)が、その後愛媛県総務部長が高圧の料金によるべきものとの見解を示したので、昭和三五年度からこれを課税標準として賦課徴収しているものである。ちなみに現在においても壬生川町及び松前町においては特高料金を課税標準として賦課徴収しているのであつて、被告西条市長の賦課徴収処分が明確に違法とは断じ難く、従つて原告の本訴請求中、原告の申立第三、第四項(原因第三、第四項)の部分も失当である。

(三)  地方税法第三二三条によれば、市町村長は条例の定めるところにより市町村民税の減免をすることができる旨規定している。これに基ずく西条市市税条例第五四条第一項第五号によれば、特別の事由があるものにつき、市長において必要があると認めるものに対し市民税を減免する旨規定している。被告西条市長は右条例により、倉レ西条工場寄宿舎居住者に対し、特別の事由ありと認めて市民税均等割一人当り四〇〇円宛を一人当り二〇〇円宛に軽減して徴収した。右特別の事由とは、倉レ西条工場寄宿舎居住者は独身者で、会社の完備した施設から受ける利益が多く、一般市民と比較して西条市から受ける利益の少ない点を指す。従つて被告西条市長の右賦課徴収処分に違法はないから原告の本訴請求中、原告の申立第五、第六項(原因第五、第六項)の部分は失当である。

(被告らの本案前の抗弁及び主張に対する原告の答弁)

一、原告は西条市の住民として、地方自治法第二四三条の二第四項に基ずき本訴請求に及んでいるのであるから、個人としては具体的な法律上の利益がない事項についても主観的訴権利益、当事者適格がある。行政事件訴訟法第五条、第四二条の趣旨からしてもそれがある。

二、原告らの本案についての主張事実を否認する。

(証拠省略)

理由

(適用法令及び原告の資格)

一、本訴のうち、被告村上徳太郎に対する訴が昭和三六年一二月七日付で、被告西条市長に対する訴が同年八月二三日付で、いずれも新地方自治法施行前に当裁判所に係属していることは、本件記録上明らかであるから、同法附則第一一条第二項、第一二条により、本件訴訟は旧地方自治法(以下単に地方自治法という。)が適用さるべき事件である。

二、原告が西条市の住民であること、原告が地方自治法第二四三条の二第一項により西条市監査委員にその主張の各監査請求をしたこと、これに対し西条市監査委員がその主張の各回答をしたことは当事者間に争がない。

(被告らの本案前の抗弁に対する判断)

一、被告らは、原告に主観的訴権利益、当事者適格がない旨主張する。しかし本訴請求は、普通地方公共団体の住民である原告が、地方自治法第二四三条の二第四項に基ずくいわゆる納税者訴訟として「当該普通地方公共団体の職員の違法な当該行為の取消、若しくはこれに伴う当該地方公共団体の損害の補填に関する裁判」を求めるものであることは、原告の主張自体によつて明らかであり、かかる住民の裁判請求権は、本来住民個人としてはその当事者適格を基礎づける具体的権利義務、法律上の利益を有しない事項について、地方公共団体の職員の腐敗行為を防止矯正し、住民全体の利益を図るため、地方自治法が特に住民に与えた公法上の権利であるから、被告らの抗弁が理由のないことは明白であり、その主張自体失当である。

二(一)  次に被告らは、原告の本件訴中、原告の申立第三乃至第六項(原因第三乃至第六項)の部分が、地方自治法第二四三条の二第一項のいずれの監査事項にも該当しないから、これに基ずく右部分の訴は不適法である旨主張する。

本件訴中、右の部分の要旨は、(1)被告西条市長が、倉レ西条工場の自家発電にかかる自己使用電力に対する電気ガス税を、地方税法第四八六条、第四八八条、第四九〇条により一キロワツト当り三円四〇銭の10/100を賦課徴収すべきであるのに、昭和二九年度から昭和三四年度まで、一キロワツト当り三円二〇円の10/100を賦課徴収したこと、及び右課税洩れの一キロワツト当り二〇銭の10/100を西条市市税条例第七条を適用して追徴しなかつたことが、地方自治法第二四三条の二第一項の「財産の違法な処分」に該当するから、同条第四項に基ずき、右前段の行為の取消及びこれら各行為に伴う西条市の損害の補填を求める、(2)被告西条市長が、倉レ西条工場寄宿舎居住者に対する住民税均等割を、西条市市税条例第二四条第一項第一号、第三二条第一項第一号により一人当り四〇〇円宛賦課徴収すべきなのに、昭和二九年度以降分につきその減免規定である地方税法第三一一条第三二三条、西条市市税条例第三三条、第五四条のいずれかを違法に適用して、一人当り二〇〇円宛賦課徴収したこと、及び右課税洩れの一人当り二〇〇円宛を西条市市税条例第七条により追徴しなかつたことが、いずれも地方自治法第二四三条の二第一項の「財産の違法な処分」に該当するから、同条第四項に基ずき、右前段の行為の取消及びこれら各行為に伴う西条市の損害の補填を求める、というのである。

(二)  ところで原告がそれに該当すると主張する地方自治法第二四三条の二第一項の「財産の違法な処分」における「財産」とは、同条項に基ずく同条第四項の納税者訴訟の目的が、普通地方公共団体の住民の手によつて、地方自治運営の腐敗を防止矯正し、その公正を確保するため認められた住民の参政措置の一環をなすものではあるが、普通地方公共団体の事業の管理出納その他の事務の一般的状況を明らかにすることを目的とする同法第七五条の事務監査請求の制度とは異なり、普通地方公共団体の公金、財産及び営造物が、本来住民の納付する租税その他の公課等の収入により形成され、自治行政の経済的基礎をなすところから、役職員によるその違法な支出、管理、処分行為を防止矯正し、もつて公共の利益を擁護することにあるのであるから、住民の負担にかかる公租公課等によつて形成された地方公共団体の公金及び営造物以外の具体的財産を意味し、抽象的な地方税の賦課徴収権のごときは含まれないと解すべきである。従つて地方税を賦課徴収すべきなのにこれをしない場合、賦課徴収前の抽象的租税債権は右「財産」に該当しないのであるから、地方自治法第二四三条の二第一項の「財産の違法な処分」に該当しないことは勿論であるが、賦課徴収すべき額より少ない額を賦課徴収した場合も、(賦課徴収した部分がその処分後右財産となつたことは明白であるが、この財産について更に違法な処分がなされたことを原告は主張するものではない)徴収洩れの部分は最初から賦課徴収されない場合と同視できるので右「財産」に該当しないから、いずれにしても「財産の違法な処分」に該当しない。なお徴収洩れ部分を追徴しない場合も、最初から賦課徴収しない場合と同視でき、右「財産」には該当しないから「財産の違法な処分」に該当しない。従つて原告の本訴請求中の前記の部分のうち、電気ガス税及び住民税均等割を少なく賦課徴収したこと、課税洩れ額を追徴しなかつたことは、原告主張の「財産の違法な処分」に該当せず、勿論地方自治法第二四三条の二第一項のその他の監査事項にも該当しない。してみれば右各処分に伴う損害の補填請求も監査事項該当の処分に伴う当該普通地方公共団体の損害とはいえない。

(三)  また右課税洩れ部分を追徴しないことは、単なる不作為にすぎず、この部分を対象とする積極的な行為は何もないのであるから「財産の違法な処分」にも該当しない。

(四)  仮に右課税洩れ部分の追徴を怠り、時効を完成させた場合においても、地方自治法第七五条に規定する一般的な事務監査の請求をなし得ることは別として、同法第二四三条の二の監査事項及び訴訟事項とはならないものと解する。

(五)  もつとも新地方自治法第二四二条の解釈としては、同条規定の監査事項である「財産の違法な処分」の「財産」には、地方税法に基ずく徴収金に係る債権も含まれると解される(同法第二三七条第一項)。また同条の監査事項には新たに「違法に公金の賦課徴収を怠る事実」が加えられ、当該怠る事実を改めるために必要な措置及びこれによつて当該普通地方公共団体の蒙つた損害を補填するために必要な措置を請求し得ることとなつた。同法第二四二条の二の出訴事項も右監査事項にならつて改正され「監査請求にかかる違法な行為又は違法な怠る事実」となり、新たに怠る事実の違法確認及びこれに伴う当該職員に対する損害賠償請求権、不当利得返還請求権等が認められることとなつた。これら新法における諸改正は、旧法における不都合を是正するためのものではあるけれども、新法の趣旨に副つて旧法を拡張解釈することは、旧法の文理に反し、新法が経過規定である附則第一一条第二項、第一二条を設けた趣旨にも反するので許されない。しかして本件訴訟が旧法の適用さるべき事件であることは先に述べたとおりである。

(六)  以上いずれの理由によつても、原告の本件訴中右の部分は地方自治法第二四三条の二の監査事項ひいては訴訟事項に該当しない事項にかかる訴であつて不適法であるから、これを却下することとする。

(職権による訴訟要件の判断)

職権によつて按ずるに、原告の本件訴中原告の申立第二項(原因第二項)被告村上徳太郎に対する損害補填請求のうち、同被告の就任前に前市長のなした奨励金(被告村上徳太郎本人尋問の結果(第二回)及び弁論の全趣旨に徴し、その金額は昭和三三年度分二一、八〇三、七八〇円、昭和三四年度分中一部一三、八〇三、六六〇円であることがうかがえる)の交付を取消すべきなのにこれを懈怠した違法行為により、西条市に与えた損害の補填を求める部分の訴は、地方自治法第二四三条の二の監査事項及び訴訟事項に該当しない事項にかかる訴であつて不適法であるからこれを却下することとする。何故なら、前市長が既に交付済みの奨励金交付行為を取消すべきなのに取消さないことは「公金の違法な支出」に該当せず、またそれは単なる不作為で積極的な行為は何もないのであるから「公金の違法な支出」にも該当せず、その他同法条のいずれの監査事項にも該当しない。してみれば右に伴う損害の補填請求は、監査事項該当の処分に伴う当該普通地方公共団体の損害とはいえず、従つて訴訟事項に該当しない。仮に奨励金交付の取消を怠り時効を完成させた場合においても、地方自治法第七五条に規定する一般的事務監査の請求をなし得ることは別として、同法第二四三条の二の監査事項及び訴訟事項とはならない。

(本案についての判断)

一、そこで結局原告の本訴請求中本案について判断すべきものは、原告の申立第一項(原因第一項)被告西条市長に対する奨励金交付行為の取消請求及び原告の申立第二項(原因第二項)中、被告村上徳太郎に対する同被告が西条市長就任後の右奨励金交付行為にかかる損害補填請求の部分である。

二(一)  原告はまず、倉レ西条工場の増設に対して奨励金を交付した処分は違法であるから、その取消及びこれに伴う損害の補填を求めると主張するので、この点につき判断する。

(二)  倉レ西条工場の増設が昭和二九年着工し、昭和三二年一二月頃竣工したこと、被告西条市長(前市長文野俊一郎、現市長村上徳太郎昭和三四年一二月二〇日就任)が同会社に対し、改正誘致条例を適用して、右工場増設による奨励金として、昭和三三年度二一、八〇三、七八〇円、昭和三四年度一八、四〇四、八七〇円、昭和三五年度一五、二二五、四一〇円を交付したことは当事者間に争がない。

右当事者間に争のない事実に成立に争いのない甲第七、第一一、第一二号証、乙第一、第二号証、証人徳永吉次郎、同桑原富雄の各証言、被告村上徳太郎本人尋問の結果(第一、第二回)及び弁論の全趣旨を綜合すると、次の事実が認められる。

(1) 旧誘致条例は昭和二九年八月四日可決成立し、同月七日公布施行された。同条例によると、西条市内に工場を新設したものに対し、市長において特に必要があると認める場合に限り、新たに固定資産税を課すことになつた年度から三年間、固定資産税を西条市税条例第五四条により免除し(第一条第一項)、市内にある既設の工場でその施設を拡大増設する場合、その増設部分につき前項の規定を適用し(同条第二項)、事業の性質上特に必要があると認められるものについては議会の同意を得て更に二年間右固定資産税の免除期間を延長することができ(同条第三項)右免除の対象となる工場は、特別の事由がある場合を除き、常時使用従業員五〇名以上、投下固定資産の総額(地方税法による評価額)三、〇〇〇万円以上の二要件を具備すること(第二条)となつていた。

(2) 倉レ西条工場の第一次(人絹部門)増設は、昭和二九年に着工し、昭和三〇年に竣工した。西条市長はこれに対し旧誘致条例を適用して五年間固定資産税を免除することとし、既に昭和三〇年度及び昭和三一年度は免除した。同工場第二次(スフ部門)増設は、昭和三〇年着工し、昭和三二年一二月竣工した。倉レは右第二次増設に対する旧誘致条例の適用による固定資産税免除の申請をなし、免除が予定されていた。

(3) ところが西条市は、地方財政再建促進特別措置法の適用を受けた昭和二九年度の赤字団体であつたから、昭和三二年に自治庁及び県から、市財政の建全化をはかるため、誘致工場に対する優遇措置としての固定資産税の免除制度を奨励金交付制度に改めるよう行政指導を受け、その趣旨に副つて旧誘致条例を改正することとなり、改正誘致条例は昭和三二年三月二二日可決成立、同月二七日公布施行された。

(4) 改正誘致条例によると、西条市内に工場を新設したものに対し、市長において特に必要があると認める場合に限り、新たに固定資産税を課することになつた年度から三年間奨励金を交付することができ(第一条第一項項)、市内にある既設の工場でその施設を拡大増設する場合は、その増設部分につき前項を適用し(同条第二項)、第一項に規定する奨励金の額は、当該年度において賦課した当該工場の固定資産税額に、初年度100/100第二年度80/100、第三年度60/100の割合を乗じて得た額とし(同条第三項)右奨励金交付の対象となる工場は、特別の事情のある場合を除き、常時使用従業員数五〇名以上、投下固定資産の額(地方税法にいう固定資産の価格)三、〇〇〇万円以上の二要件を具備すること(第二条)、この条例施行のとき旧誘致条例の適用を受けているもの及び新設、増設の届出があつて現に建設中のものについては、なお従前の例によるものとすること(附則第二項)となつていた。

(5) 倉レ西条工場の第一次増設は、常時使用従業員数が五〇名以上(増設完了時一三〇名、昭和三四年一二月一〇日現在一一〇名)で、投下固定資産の総額は三、〇〇〇万円をはるかに上廻つた。同工場第二次増設も、常時使用従業員数五〇名以上(増設完了時二二八名、昭和三四年一二月一〇日現在二一〇名)で、投下固定資産の総額は三、〇〇〇万円をはるかに上廻つた。

(6) 被告西条市長は、右条例改正前は右倉レ西条工場の各増設に対し、旧誘致条例を適用して固定資産税を免除する予定であり、現に昭和三〇年度、昭和三一年度は免除したのであるが、自治庁及び県から前記のとおりの行政指導を受けたので、市議会に諮つて旧誘致条例を改正し、将来の工場新設及び増設に対しては奨励金を交付することとし、従前の旧誘致条例時代の既得権を尊重して改正誘致条例附則第二項でその調整を計つた訳である。それ故右倉レ西条工場の増設に対しては、右附則第二項により旧誘致条例を適用して固定資産税を免除すべきであつたのであるが、西条市議会の議決を経て昭和三二年度以降昭和三五年度まで改正誘致条例を適用して当該年度の固定資産税を免除せずに一旦賦課徴収した上、これと同額の奨励金を交付した。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(三)  右認定の事実によれば、倉レ西条工場の増設は、改正誘致条例附則第二項に規定する「この条例施行のとき旧誘致条例の適用を受けているもの及び新設又は増設の届出があつて現に建設中のもの」に該当し、「なお従前の例による」べき場合であるから、旧誘致条例を適用すべきであることが明白である。そこで若し、右増設が旧誘致条例第二条の適用要件を具備しているなら、同条例第一条により固定資産税を免除すべきであつたのであり、これに改正誘致条例を適用して奨例金を交付したことは違法である。従つて被告西条市長の倉レに対する昭和三二年度から昭和三五年度までの奨励金の交付は違法な行政処分であり、地方自治法第二四三条の二第一項の「公金の違法な支出」に該当する。

(四)  被告らは、右奨励金の交付は被告西条市長が西条市議会の議決を経て執行したものであるから違法でない旨主張するが、たとえ議会の議決を経て執行した場合でも、これは単に執行機関の議会に対する免責のみを意味し、なお被告西条市長にとつて地方自治法第二四三条の二にいう「公金の違法な支出」というのを妨げない。

(五)  しかし行政処分が違法であるからといつて、直ちにこれを原告主張のようにそれを取消すべきものかどうかは又別に判断されなければならない。何故なら違法であるからという理由で無条件でその取消をなし得るものとすると、既成の秩序を破壊し、法律生活の安定を阻害するから、これを取消すためにはその取消を必要とするだけの公法上の必要がなければならない。関係者の既得の権利、利益を侵害する場合や、実質的違法はないのに僅少な手続的違法にとどまる場合は、その違法処分を取消すだけの公益上の必要がなければならないと解する。これを本件についてみるのに、前記認定の事実からすれば、被告西条市長は倉レに対し、既に奨励金として交付した額と同額の固定資産税を旧誘致条例により適法に免除し得るし、(第一次増設に対しては旧誘致条例の適用による固定資産税の免除が決定実施中であつたし、第二次増設に対しても同法の適用による固定資産税の免除が予定されていた)、倉レに対する関係ではその固定資産税の免除が義務づけられていたとみられる場合であつた。かような場合固定資産税を免除せずに、一旦賦課徴収してそのまま奨励金として交付する形式をとつても、最初から免除したのとその実質、経済的意味は同じであつて、もとより西条市の財政に新たな負担、損害を与えるものではない。かように結局固定資産税の免除の方法で優遇措置をすべき場合にそれと同額の金員を奨励金の形で交付した違法は単に手続的なものであつて実質的な違法は存在しないし、これを取消すことは倉レの既得権を侵害するのに反し、必らずこれを取消さなければならない公益上の必要も認められないから、右奨励金の交付行為は違法ではあるが、直ちに取消すべきものではない。原告の被告西条市長に対する奨励金交付行為の取消請求は失当である。また原告の被告村上徳太郎に対する右行為による損害補填請求も、以上のところから西条市に実質的損害がないことが明らかであるから、これまた失当である。

(六)  原告は、改正誘致条例はもとより旧誘致条例も適用さるべき場合でないことを主張する。なるほど証人越智寛の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第九号証、同証人及び同徳永吉次郎の各証言によると、原告主張のとおり倉レ西条工場の全従業員が漸減したことは認定できるが、原告の主張は、本件工場の増設が、全従業員数の減少及びそれによる市民税の減収の原因であることを前提としたかなり一方的な見解に基ずく主張である上に、これが主張に副う証人明日登志雄の証言、原告本人尋問の結果も右一方的な見解に基ずく結論であつて措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠がないので、原告の右主張は採用できない。なお旧誘致条例の適用要件は、増設部分を単位としてその常時使用従業員数が五〇名以上であること(第一条第二項、第二条)等であり、本件増設部分に関しその各要件が具備されていることは先に判断したとおりである。

三、原告は、奨励金の交付にしろ固定資産税の免除にしろ、それが昭和三二年以降従業員数が漸減しておるのにかかわらず、その員数について虚偽の記載をした交付申請書に基いてなされた処分であるから違法である旨主張する。証人徳永吉次郎の証言によれば、昭和三二年一二月九日付倉レ提出の交付申請書に、従業員数七一名増と記載されていたことが認定できるし、その後倉レ西条工場の全従業員数が、漸減していることは前記認定のとおりであるが、これをもつて虚偽内容の申請により被告西条市長を誤まらせて処分をなさしめたものと速断することはできない。何故なら両誘致条例の適用要件は増設部分の常時使用従業員数が五〇名以上というのであり、本件各増設部分について常時使用従業員数が右要件を具備していたことは前記認定のとおりであつて、この点に虚偽はない。原告は倉レ西条工場の全従業員数の増加が両誘致条例適用の要件であることを前提とし、その点で申請に虚偽ありと主張するのであろうけれども、両誘致条例を仔細に検討してみてもそのように理解しなければならない根拠は見出せないので、原告の主張は失当である。

四、原告は奨励金の交付、固定資産税の免除は地方税法の精神に反し違法である旨主張し、奨励金の交付または固定資産税を免除した場合の相対的税収の減少をその根拠として挙げている。しかし地方税法においても同法第六条第一項により「公益上その他の事由により課税を不適当とする場合においては課税をしないことができる」し、同条第二項により「公益上その他の事由により必要がある場合不均一の課税をすることができる」のである。従つて公益上の理由によつて工場を誘致するため、右規定に基ずく条例を制定して当該工場に対する固定資産税を免除することも許される訳である。もとより地方公共団体の税収の確保、増収の立場からすれば、工場の誘致については、当該地方公共団体の住民の一般的な公益を確実に増進できる工場を選定することが望ましいところであろう。しかし、仮にその選定を誤まつたとしても、そのため直ちに当該誘致工場に対する課税免除等の措置までが違法な処分となるものではない。又課税免除の時期、期間等の定めにつき配慮すべき点も多かろうが、これは法規、条例の運用の問題にとどまり、その定めの当不当が直ちに免除措置を違法なものとするものでもない。本件旧誘致条例は、誘致工場に対し期間を原則として三年、議会の同意を得て最大限五年までに限定して固定資産税を免除することになつていたのであるから、それが地方税法の精神に違反するものとまでいえないし、固定資産税の免除によりその間一時的に税収の増加をのぞめないことは原告主張のとおりであるけれども、そのため直ちにその免除措置までが違法となるものでないこと右に説示したとおりである。また奨励金の交付は地方税法とは無関係で違法の余地がないと解するので、原告の右主張は失当である。

五、原告は西条市が地方財政再建促進特別措置法の赤字団体であるのに、同法第二三条第二項による自治大臣の承認なくして奨励金を交付したことが違法である旨主張する。西条市が地方財政再建特別措置法の適用を受けた昭和二九年度の赤字団体であることは当事者間に争がないが、成立に争のない乙第一、第二号証によると、昭和三三年度の奨励金の交付については、昭和三三年一〇月二八日付で愛媛県知事の承認があつたこと、昭和三四年度及び昭和三五年度分についての承認はないが、昭和三四年度以降西条市は財政再建年次を終了していること、を認めることができ、右認定に反する証拠はない。自治大臣は同法第二五条、同法施行令第一三条により、同法に定める承認の権限を県知事に委任することができ、右規定により自治大臣から委任を受けた県知事の承認があること右認定のとおりであるから、原告の主張は失当である。

(結論)

以上のとおりであるから、原告の本件訴中、原告の申立第二項(原因第二項)のうち被告村上徳太郎が市長就任前の奨励金交付にかかる損害補填請求の部分、原告の申立第三乃至第六項(原因第三乃至第六項)の訴はいずれも訴訟事項に該当しない事項にかかる訴であつて不適法なものであるからいずれもこれを却下することとし、原告の申立第一項(原因第一項)の請求と、原告の申立第二項(原因第二項)の請求のうち、被告村上徳太郎の就任後の奨励金交付にかかる損害補填の各請求は、いずれもその理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本益繁 上野智 尾崎俊信)

(別紙省略)

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